【聴講】語彙・辞書研究会 第56回研究発表会

2019年11月9日に聞きに行ったセミナー(研究会)を思い出して記録しています。

国語辞書の作られ方を知れるとよいなと思い、「語彙・辞書研究会 第56回研究発表会」を聞きに行きました。

https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/goijisho/

シンポジウム「国語辞書の文体・位相・語感の記述について」

あまりに専門的な内容だと聞いても全くわからない恐れがあるのですが、このテーマなら日本語全般にかかわりそうなので何かしら内容がわかるのではないかと思って聞きに行ってみることにしました。 結果として国語辞典というイメージを超える幅広いテーマのお話が聞けてとてもよかった。

中村 明(早稲田大学名誉教授)「空想の国語辞典—語彙・意味と文体・語感の周辺—」

基調講演。すみません。内容が難しくてほぼわかりませんでした。ただしこの後続くそれぞれのお話につながる今回のテーマの幅広さを感じることができました。

予稿集の記事が縦書きだったのが印象深いです。そしてスライドや板書もなしだったのが国語辞典の人とほかのところから来た人のスタイルの違いかな、とも思いました。

石川慎一郎(神戸大学教授)「コーパス調査に基づく「文体・位相・語感」の記述の可能性 —日本語学習者のための発信型辞書の開発を見据えて—」

英語分野の方でした。辞書学の学位を持っていて、コーパスが専門だそうです。

日本の国語辞典は日本語を母語とする人向けですが、日本語を学習する外国人向けの国語(日本語辞典)はどうあるべきか、というお話でした。国語辞典には日本語を母語とする人にとってあたりまえのことは書いていない。しかし母語としない人たちにとってはその省かれている情報が大事だとのこと。例えばこの言葉はこういう使い方はしない、という「しない」という情報であるとか。

また、コーパスの研究者なので英語のコーパスの話題も興味深かったです。イギリスのコーパスを使えばこの言葉はどの年代の人がどこで使っているということが調べられる。例えば「lovely」という言葉はイギリス英語に特徴的だが若い人はあまり使っていない。だからイギリスの老人ホームでおじいちゃんおばあちゃんがかわいいお花をみて「lovely」と言っている場面が想像できるとか。

最後のほうで話していたイギリスのコーパスがすごくて上記のような分析のほか、学習のための教材まで自動生成できてしまうのだとか。試してみたいな。

予稿集だけでなくスライドもしっかり作ってあって発表の声も大きかったところに英語研究者ぽさを感じました。

宇野 和(お茶の水女子大学大学院生)「接尾辞ミと「味」の特徴―近代からTwitterまでを例に―」

個人的に一番面白かった発表でした。

「わかりみ」とか「つらみ」などの近年TwitterなどSNS上で使われてはじめた言い方についての研究で、明治期の用例を参照したり、名詞につくのか形容詞につくのかなど、どんな活用形につくのか分析していました。さすが研究者だな。こういうのをちゃんと調べている人がいるんだなあ。参考文献欄の論文を見るにもう4年くらいはこの研究をしているようだ。

若い研究者の方なのにスライドは発表概要の数枚のみでした。予稿集の内容を口頭でさらに詳しく話すスタイルでした。スライドをあまりつくらないのが国語研究者スタイルなのかな?

東中竜一郎(NTTメディアインテリジェンス研究所)「対話システムの文体とキャラクタ性」

なんと人工知能研究方面の方からの発表者です。最新の対話システムについてのお話。

マツコロイドというマツコデラックスの話し方をまねるシステムをつくって本物のマツコと会話させたり、YouTuber、Vtuber、アニメやゲームのキャラクターなどをまねて話すシステムを作った結果を離していました。

しかし聞いてみた感じ、20年近く前に流行っていた「人工無能」といまだ大差ないように感じました。

マツコロイドが本物のマツコと話しているシーンの動画を見ましたが、会話が流れで結婚生活についてになってしまい、独身のマツコが話題切り替えをしようとするもマツコロイドはしつこく結婚の話題をし続けた挙句に独身を批判するような発言をするとか(笑)まあテレビだからシステムの失敗を面白おかしく扱われたのかもしれません。

システムが悪いというよりは人間の会話が難しいものだと思うんですよね。人間同士でも相手の意図が読めずズレた会話をしてしまいがちです。上で書いたマツコロイドシステムのような会話を現実にやってしまう人間は珍しくありません。

システムが人間を模したものである限り、人間でもできないことをシステムにうまくやらせるのは矛盾したことなのではないのかな。

毎回発表資料に言及してるんですが、この方は予稿集には概要だけで別刷りで詳しい内容が配られていました。スライドはIT系の人たちに近いスタイルでした。

対談

コーパスの石川さんが「み」の宇和さんに「そろそろ国語辞書に「わかりみが深い」が載ってもいいのでは?」という問いかけを。私はつい「いいんじゃないか」と思ってしまったのですが、宇和さんはさすが国語学者、簡単にいいですねとは言えない様子。まだ「み」の取り扱いに慎重なようでした。

宇和さんから

「今日二松学舎で「漱石アンドロイド」のシンポジウムがあってその発表一覧に「生きてるみ」という言葉が!」

という発言が出たときは一言の中にパワーワードがいくつも入ってて混乱しました(笑)

「アンドロイドに魂は宿るか? 漱石アンドロイドをめぐる3つの視点」佐藤大氏脚本 漱石アンドロイドによるモノローグを上演します | 漱石アンドロイド 特設サイト

漱石アンドロイド」……。「生きてるみ」……。

国語の世界は深いなと実感できた発表会でした。