【聴講】2019年度JACET英語辞書研究会:「英和辞典を日本語から考える」

2019年10月19日の話を後から思い出して記録として書いています。

英和辞典はどうやって作られてるんだろうかと興味を持っていたので下記の会を見つけて聞きに行ってきました。

2019年度JACET英語辞書研究会:「英和辞典を日本語から考える」 https://sites.google.com/site/jacetlex/home

英語辞書の作られ方を雰囲気だけでも見られたらいいなと思っていたところ、国語辞典好きの人にはおなじみの校閲者の見坊行徳さんと三省堂国語辞典飯間浩明先生の講演があって、門外漢が聞きに行っても大丈夫そうな感じだったので。

40~50人くらいの聴衆がいましたが半分くらい女性で、見た感じ30才~くらいのこの業界関係者ぽい雰囲気でした。女性が比較的多めの業界なのかな。

全体的な内容はタイトル通りに英和辞典の中に適切ではない、変な日本語訳が入っている問題を英語辞書の研究者と国語辞書の研究者が話す というものになっていました。

「辞書作成現場からみた英和辞典の訳語」吉村由佳(『ウィズダム英和辞典』編集委員

英和辞典の編纂者に高齢で男性の先生が多いので女性や若者向けの用語の訳に残念なものがありがちというお話。ファッションや家具や生活小物の訳語がそうなりやすい。JACET英語辞書研究会のページにスライドがアップしてあるのでそちらを見ると例が載っています。

特にわかりやすくて印象に残ったのが下記のもの。

英語 古い訳語 新しい訳語
squeegee ゴム付き棒ぞうきん スキージー
bandeau 幅の狭い(細い)ブラジャー チューブトップブラ
manicurist 美爪術師 ネイリスト

まだ日本で一般的になっていなくて当時は適切な名称がなかったものもあれば、女性や若者の間での呼称を編纂者が知らなかった場合もあるそうです。ウィズダム英和辞典では上記のような訳語をなるべく直したらしい。

カタカナに直せそうな言葉でも英語圏と日本語圏で微妙に意味が違ってしまったり、訳語だとどうしても意味がうまく伝わらない場合もあるそうです。

「英和辞典のちょっと気になる日本語」見坊行徳(国語辞書マニア・校閲者)

国語辞書関係のイベントによく登壇している校閲者の見坊さんのお話。校閲者から見た英和辞典のおかしな箇所についてでした。こちらもスライドがアップしてあります。

代表的な英和辞典として「ジーニアス英和辞典」「ウィズダム英和辞典」を例に挙げていました。

おかしな箇所の例で印象に残ったのが、

distopia → 地獄郷

utopia(理想郷)の反対語なんですが「地獄郷」という言葉は国語辞典に載っていません。

そして、私はIT業界者なのでとても気になったのが、

Java → ジャヴァ(ネットワーク用プログラミング言語

スライドを見ると「スペースキャット」の画像で「これ何?」感を強調されてます。確かにIT業界では現在Javaを「ネットワーク用プログラミング言語」として紹介するケースはないですね。20年近く前の知識のまま更新されていません。 そして「ジャヴァ」「ジャバ」は訳語といえるのかという指摘もされていました。

スライドのその後を見ていくと、

  • 英語の名詞を日本語でも名詞にしようとして無理が出る
  • 古い言い回しの英語を同等の古い言い回しの日本語にしようとして現代日本語として伝わるか怪しい訳になる
  • 英語圏と日本語圏で微妙に指すものが違うのでずれが生じる(カーキの色の違い、ジャージは英語圏ではバスケ選手のタンクトップを指したりもする)
  • そもそも英和辞書の中に日本語文法が正しくない文章がある

など吉村先生の講演内容を国語側から細かく指摘したお話でした。

「国語辞典の説明をどう手入れするか」 飯間浩明先生(国語辞典編纂者)

Twitterなどでもおなじみ「三省堂国語辞典」編纂者の飯間先生です。

吉村先生と見坊さんのお話を踏まえたうえでの国語辞典の語釈の変遷についてのお話でした。黒板に板書だったのでスライドはありませんでした。

見返せる資料がないのと国語辞典の専門的なお話であったので思い出して書けることが少ないのですが、印象に残っているのはカタカナ語の語釈をどう手入れしていくのかという話です。

例えばテレビは一番最初は「テレビジョン」として国語辞書に載ったけれども、どこかのタイミングで「テレビ」として載せるようになった。ワープロも最初は「ワードプロセッサー」だったけれども普及がすすんで呼び名も変わったので「ワープロ」になり、語釈も変わっていったそうです。いつどのように変えるのかというところに英和辞典だけでなく国語辞典も苦労していることがわかります。

あと辞書に若者や女性が使う用語が載っていないことについて、飯間先生は辞書を作る側の不勉強なので男性でも広く言葉を収集していればできるはずといわれていました。これはどうかなあ?どうしても男性では女性に必要な言葉を身に着ける機会はないし、当然女性が男性にでも同じ。幅広い立場の人が編集に加われるのが理想的ではありますね。